写真は残る。
残したくないものも、残る。
明日を残すことは出来ないけれど、昨日と今日を残すことが出来る。
そんな写真が、私は嫌いだった。
パラパラとアルバムを見ているモンブランに、私は頬杖をついたまま視線を向けた。
先ほどから何を熱心に見ているのだろうか。
私以上に好きなものなど、モンブランにあるのだろうか。
「ジョーとの思い出が、一杯」
モンブランは笑った。
まるで心を見透かされたようで、私は目をぱちくりとさせる。
だが、あえて平常心を保ちモンブランに言った。
「私の写真は、一枚も無いはずよ」
写真が嫌いだから。
モンブランがカメラを持つたびに、私はモンブランを嫌ってきた。
私を好きなモンブランだからこそ、私の姿を映しているはずは無いはずだ。
盗撮なんて、馬鹿な真似をするような人柄でもない。
私の言葉に、モンブランは楽しそうに笑った。
そして、アルバムを私に見せた。
「花?」
さて、これはチューリップだろうか。
そんなことを思ってしまうほど、あまりにも唐突な写真だった。
「次は、蛙」
「蛙?」
「そうだよ。アマガエル」
「そう」
写真一杯に蛙の姿が写っていた。
私はまたも唐突な写真に首を捻る。
「これはね、ジョーと初めて出会った日に取った写真」
「あら、蛙なんていたの?」
「あれは、雨の日だったから」
「そう」
「こっちの百合の花は、ジョーが僕を嫌いって言った日」
「昔はそんなことも多かったわね」
「これはね、ジョーが始めて笑ってくれたときに撮った月」
「月に見えないわ」
「満月だったんだ。雲の下に隠れちゃったけど」
日付から逆算すれば、確かにその日は満月だった。
「…そうね」
「流石ジョー、計算も知識も凄いね」
「モンブランの方が、凄いんじゃないの?」
皮肉染みた言葉で言えば、モンブランは苦笑した。
知っている。
モンブランは私以上に存在意義がある。
こんなちんけな家に留まっている私以上に、モンブランは社会から必要とされている。
そんなモンブランを縛り付ける存在が、私だ。
矛盾している。
可笑しい。
私は、それでも写真を見た。
雲の隙間から、淡い月光が漏れていた。
「次の写真は?」
「あれ?興味持ったの?」
「それなりに」
「だったら、嬉しいな。僕とジョーの思い出だから」
「モンブランの中に閉じ込められた思い出よ。写真と言う媒介を通じて、私の目にも入ってくるだけ」
「寂しいよ」
「寂しい?」
「うん。だって、大好きなジョーとの思い出が見つかったと思ったのに」
「思い出なんて、ないわよ」
「あるよ。こうして思っていることが、思い出。思い出すから、思い出」
「思い出しちゃったわね、思い出」
笑った私に、モンブランも笑う。
「今日は、薄の写真を撮ってくるんだ」
「どうして?」
「ジョーが、また笑ってくれたから。初めて、僕の写真に対して笑ってくれたから」
楽しそうな笑顔。
私はただ苦笑した。
そんなモンブランが、どうしようもなかった。
馬鹿だと思う半面で手放せないだろうと感づく自分が居た。
さて、今日はこれからどんな思い出が出来るだろう。
明日はどんな思い出を作るのだろう。
出来れば、晴れる空を写真に収めたい。
写真は嫌いだ。
でも、思い出は仕方が無い。
私は、明日と言う日に夢を見た。
初めて、夢を見た。
―――
あ、明日…ドンガラガッシャーン!PR