盛大な笑い声と、どうしようもない見苦しさに、心の底から吐き気を催した。
出来れば、耳を塞いで口を塞いで手足も縛って海に捨てたい。
そんな状況。
しかし、男は笑う。
「馬鹿だ!馬鹿!俺がそんな手にひっかかると思ってんのかよ?!舐めんのも対外にしろっつーの!ふざけんじゃねえよ、このゲスが!ほんっとうに、情けなくて涙が出るぜ!」
「…私は元凶にヘドが出るわ」
「ジョー、言葉遣い」
コンの叫びに私がため息を付けば、モンブランが最後に制した。
これはいつものパターンなので特に突起せずに終わる。
問題は相手方のほうである。
そこまで言われた相手方は、それでも平然としていた。
寧ろ、表情が嬉々としている。
「へえ、私にそこまで言う奴なんて、はじめて」
それは笑った。
私と同じ姿を持った、自称私のクローンは笑って見せた。
クローンとは傍目から見るとこんなものなのか、と当人として納得する。
コンはそれを睨む。
「お前、へこたれねえのな」
「へこたれる?何によ」
「そんな強気なところ、ジョーそっくり」
「褒め言葉として受け取るわ」
何よりもジョーになりたい存在だもの。
それの言った言葉は、予想よりも強く私の心に響いた。
「それで、俺に媚び売ってるわけ?」
「ただ、元のポジションに戻らないかと提案しているだけよ」
コンの見下したような笑みにさえも、それは毅然と答える。
こういう時ばかりは、それの味方をしたくなった。
それの素っ気無い態度に、拗ねるコン。
「なんか、ジョーを相手にしてるみたいでつまんねえ」
「褒め言葉」
「…殴るぞ」
「女に暴力振るう男は、最低ね」
「どの口が言えるか」
「この口」
流石に笑いが零れてくるモンブランの姿に、私は頬杖をつきながら欠伸をする。
クスクスと笑うモンブラン。
視線をそちらに移していると、不意にそれがコンに歩み寄った。
「そもそも、貴方は私の婚約者でしょう」
「解消されたけどな」
「それだけの実力はあった」
「…俺は鷹だ」
「爪は隠す」
コンの実力など高が知れている。
あえて言うのならば、確かに彼には私にもつかめない実態と存在能力がある。
それきりだ。
しかし、私には直結しないので以前資料は燃やしてしまった。
とりあえず、汚い言葉遣いだけは後できっちり正しておこう。
「コンは、どうしてここに?」
それが聞いた。
「俺は求められれば逃げたくなるタイプなんでね。コンなんて架空の名前で存在できる夢物語のほうが俺にはお似合いなんだよ」
コンが答えた。
意外な答えに私は視線を上げる。
二人はこちらを見ていた。
「存在の不可思議」
「俺は俺。だから、ジョーを好きになろうともお前は好きになんねえな」
「私はコンが嫌いよ」
「ジョーを口説くんなら、最初に僕を口説いてね」
二人の台詞に、私とモンブランが口を開く。
モンブランだけが、言葉を続けた。
「ジョー、僕はジョーのことが大好きで大好きでしょうがないんだ」
「そう」
素っ気無いのはこちらも同じだと、思ってしまった。
areaお題。
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