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「あーきのゆーうーひーに」
「音痴」
「ジョー、楽しんで歌っている人にそれはないよ」
「じゃあ、耳障りが悪い」
「…いや、それもちょっと」
「あら、モンブランは我侭ね」
笑った私にモンブランは拗ねたように口を尖らせた。
その表情が可笑しくて、私は笑う。
童謡。
昔から歌い継がれてきた、懐かしい歌である。
今、流行の歌なんて私は一つも知らないけれど教養の一部として童謡ぐらいは知っていた。
「最初の音、半音ずれてるわ」
「あれ?ジョーって絶対音感持ってたっけ?」
「ないけど」
「どして?」
「勘」
モンブランは盛大に笑う。
それが可笑しくて、私も笑った。
「あーきのゆーうーひーに」
モンブランは再度口ずさむ。
小さな歌声に、私は微笑んだ。
続きがわからないのか、モンブランはうんうん唸っているようだった。
秋の夕日に、照る山紅葉。
見れば、ずっとずっと遠くの山が紅葉に彩られていた。
赤いも、黄色も、薄いも、濃いも、様々な、色。
私はまぶしさに目を細める。
とてもとても綺麗な色が、山を彩っていた。
「もう、秋なのね」
私は遠くを見つめる。
昔の人は、秋をとても物悲しいものだと表現してきた。
滅多に他人の意見に賛成しない私だが、それは正しいと思う。
どこか、寂しかった。
冬の静寂とは違う寂しさが、秋にはあった。
宿る木漏れ日は、まるで蝋燭にともる仄かな明かりのように、弱い。
モンブランは木の柵に腰を落ち着かせ脚をぶらぶらと揺らしていた。
ブランコのようだった。
ああ、ブランコにももう何年も乗っていない。
そんなことを思った。
「秋になったら、何が食べたい?」
「モンブラン」
即答した私にモンブランは目をぱちくりとさせる。
だが、やがて笑った。
「了解。じゃあ、腕によりをかけて、美味しいモンブランを作ってあげる」
モンブランの料理の腕前は私自身が良く知っている。
私は、小さく笑った。
秋の夕日の下で。
寂しい気分を吹き飛ばすような甘い空気が、私の胸を吹きぬける。
照らされた紅葉の色よりも濃い存在になりたいと、いつかの私は願ったのだろうか。
そんな私は、ここにはいない。
ただ、明日のモンブランに夢を馳せる私がいるだけである。
秋の夕日に、私は恋焦がれた。
木漏れ日が、揺れた。
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