―――
寂しいことはなんですか。
私は、とても寂しいことがわかりません。
私の言葉に、モンブランは小さく笑った。
「ジョーは昔からそうだもん」
「昔からって言っても、私とモンブランは知り合ってまだ数年よ」
「そうだね」
相変らず楽しそうなモンブランに、これ以上の言葉は無いと私はため息をつく。
エアメールが一通、机の上に置かれていた。
赤と青の線が目立つ、いかにもという風貌の手紙に私は伸ばしていた手を止める。
封は開けていなかった。
開ける気にもなれなかった。
あて先は、私。送り主は、名も知らない事業団体である。
「私達の技術力は、何に使われるのかしらね」
皮肉染みた私の言葉に、モンブランは「さあ」ととぼけてみせる。
「僕達の技術力は、周りが思うほどないと思うよ」
「どうして、そう思うの?」
「僕達の技術力は、ただの見てくれだから」
中身は空っぽで何もないのだと、モンブランは笑った。
私も同感する。
私達の姿は、所詮見てくれである。
人間は初対面で個人という存在を認識するさい、見てくれを最も重要な判断基準にするらしい。
私の見てくれはどうなっているのだろうか。
中身は空っぽの私の見てくれは、それでも空洞ではないのだろうか。
「空洞は、空しいことね」
何も無い。
それこそが、全ての始まりであり、終わりである。
「でも、寂しいこととは少し違うよ」
「どこが?」
「ジョーがもう少し、大人になればわかると思う」
「私がモンブランより子供だというの?」
「ううん。僕は子供だよ。ずっとずっと、子供で居る」
「まるでピーターパンね」
「そういう症候群、僕大好き」
楽しげに笑ったモンブランは、まさしく子供のようだった。
純粋で無垢な笑顔に、私は空洞の中を一筋の冷たい風が走っていく感覚を覚える。
私は、小さく肩を落とした。
「寂しいことは、何だと思う?」
私の問いに、モンブランは寂しさなど感じたことがないという笑顔で答える。
「孤独は、慣れてしまえば寂しくない。寂しくないと思ってしまえば、人間は虚勢を張れる。僕が一番寂しいと思うのは、ジョーから捨てられたとき」
「それは、モンブランにしか当てはまらないわね」
「虚勢を張るのは、寂しくないことだけれど、空しいことだよ。大人とか子供とか関係ないぐらい、空しいこと」
モンブランが笑顔で言うものだから、私はその言葉の重みが理解できなかった。
私は、エアメールをゴミ箱に投げ捨てた。
相変らずモンブランは表情を崩さない。笑顔だ。
エアメールの入ったゴミ箱を見つめ、私は小さく呟いた。
「私は、子供かしら」
「思うのは人それぞれ。ジョーが子供でいたいなら、子供で居れば良い。僕も、好きで子供でいるんだ。子供で居るうちは、どんな我侭だって子供だからの理由で済まされる。まあ、それもこんな社会が存在するからだけどね」
モンブランの言う社会というのは、恐らく私が作り出した架空のこの空間のことだろう。
私達のような、はぐれ者しか住んでいない村のようなこの地区。
社会から切り離されたから、私達は子供で居られる。
「でも、体は永遠に子供でいることは出来ないんだよ。だから、僕はせめて心が子供であるうちに沢山遊ぼうって決めたんだ」
「私も子供で居ようかしら」
「それは、今言うには遅いかも」
「どうして?」
「いつも、ジョーは僕を振り回してる。僕は、ジョーに振り回されてる、ジョーより見れば大人な存在」
「私はモンブランより子供って事?」
「子供はね、好きなだけ我侭をいえるんだよ。相手を傷つけることも容易。気づかないから、何だって言える。去勢を張るから、遠慮を知らない。気づいたときは、時既に遅し。ジョーは、どうやって僕で遊ぶ?」
私は小さくため息をついた。
「そんな捻くれた人形は、要らないわ」
モンブランは相変らず、笑っていた。
PR