オリジナル小説「area」のお話。
例えばの言葉を連ねてみるのだが、脳がぶっ飛んだような架空が広がり一種のトラウマになった。
彼女が言うには、それこそが何よりも面白いらしいのだが、果たして自分には理解出来なかった。
初めから「面白い」という類いに属す言葉を知らなかったとしても同意語になる。
「面白い」とは何なのかを彼女に尋ねた時があった。
彼女は笑いながら迷いもせずに、「アーメン」祈りを捧げた。
皮肉を含んだ眉は寄せられ、僕も何気なく懺悔の言葉を返す。
それきりよ。
それだけよ。
例え用のない塊に名付けた彼女は、相変わらずつまらなそうだった。
何がそれほど彼女の心を虚空で満たし、はたまた貪欲にさせるのかは理解し難かった。
「最近の発見」
徐に彼女は口を開く。
僕はジンジャーティーを、イタリアから取り寄せたカップに注いだ。
「今、100年に一度のつなみの中にいるの」
「ああ、金融のお話だね」
「なんだと思った?」
「例えば、庭先の金木犀が枯れた話かと」
笑って誤魔化す僕に、彼女はそれもあるのかと窓を見た。
しかし、僕は彼女の発見を聞いていない。
続きを促す様に、然り気無く彼女の視界の範疇にコップを置いた。
「100年って、英語だとone century になるの」
「一世紀。当たりでもなく外れでもなく、聞き覚えのない言葉だ」
「それなのよ。私達とあちらでは何が違うのかしら。今まで100年と思っていたものが、演説でははっきりと世紀だなんて…。愕然としたわ」
「字幕見ないで演説者の言葉に耳を傾ける人は珍しい部類じゃないかな?」
実際に、今まで彼女がニュースの字幕に目を通した姿を見たことがない。
苦笑して、僕は紅茶が冷める前にと蓋をした。
―――今回の報告書」
私はコピー用紙に印字された文字の間違いを探しながら口を開く。
大抵、私の仕事に間違いなどないので訂正はしなくても良いだろう。
実家に送るためにファイリングしていると、報告書を読み終えたモンブランが口を開いた。
「これには僕とジョーの愛の語らいがないよ」
「初めからないでしょう」
「うーん。きっぱり」
「煩わしいのは嫌いなの」
レポート用紙の端を揃えて、白いファイルに押し込めた。
「ねえ、ジョー」
「何?」
「頼られてる時は煩わしくなるけど、自立した姿を見ると寂しくなるね。昔は僕が報告書の手伝いしてあげたのに」
拗ねるモンブランに、私は笑った。
あっけらかんとした私の姿は清々しく見えるようで、モンブランは口を尖らせる。
「報告書に訂正」
「何処?」
「僕はジョーをもっとよく見てるよ。大好きなんだもん」
「却下」
私はそういう感情を見放したのよ。
理由を知っているからか、モンブランは異論を唱えず呟いた。
「それにしても、僕はこんなこと考えてるのかなあ。ジョーの中で」
答えを見つけるのが面倒だったので、聞いていないふりをした。
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