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日常を綴りながら灰色楽団とバジル君へ愛を捧げる同人日記です。時折生物注意。
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急に書きたくなったオリジナル小説。


―――

季節は変わり目を迎える。
真っ青。
と呼んで良いほど綺麗な青空に、白い雲が浮いていた。

「わたあめが食べたいわー」

自転車の後ろに作った専用の席に座りながら、彼女は言う。
生ぬるい風が気持ち悪かった。
俺は、自転車をこぎながら後ろの声に返す。

「お前、それで太っても知らねえぞ」
「うっさい」
「太ったってぶーたれてんの、お前のくせに」
「でもねえ」

重心が動いた。
どうやら、彼女があろう事か暇つぶしに足を揺らし始めたようだ。
おいこらお嬢さん。
スカートを履いてるんだから、少し羞恥とやらを学ぼうか。

「どうせ、太ったってあんたが嫁にしてくれるんでしょ?」
「誰が、いつ言った」
「あんたが、ずっと前に言った」
「思い出を捏造してんじゃねーよ」
「あらまあ、思い出すのが恥ずかしかったのかしら?」

このマセガキーと頬をつつく彼女だが、俺と同い年だ。
あからさまにため息をついて、せめてもの急ブレーキ。
予想通り、背中に衝撃と「あうちっ!」という色気も無い声が当たった。

「痛い!」
「痛くないだろ。寧ろ、貴方の頭が当たった俺のほうが痛いですー」
「石頭じゃないもん」
「認めたな」
「知らん」
「…そーですか」

終わりが見えない。
俺は会話を諦めて、また自転車のペダルに力を込めた。
彼女はまた足を揺らし始めた。

「ねー、ちゅーしよ」
「は?」
「ちゅー」
「生憎、俺の両手はハンドルという大事な命綱を握ってますもので」
「さいですか」
「さいですよ」

錆びた自転車のタイヤが、くすんだ音を響かせた。
彼女はそれきり黙る。
沈黙なんて似合わないから、仕方がないと俺は口を開いた。

「それにしても、急に世界が540度変わったようなことを言うね」
「540度?中途半端」
「で、どうして?」

坂道になって、俺はペダルから足を離す。
ゆるい下り坂は、生暖かい風で充満していた。
口いっぱいに吸い込む。
気持ち悪くなった。

「したことないから」
「俺ですか」
「選ばれたことを幸運に思ってよ」
「はいはい」

頷きながら、ブレーキをかける。

「あんたはしたことあるの?」
「何を?」
「ちゅー」
「したことなんて、ないですねえ」
「さいですか」
「さいですよ」

キキーと耳障りな音を立てながら、自転車はカーブを通っていく。
少しだけ古びた町並みに、どうも格好の付かない俺達の姿は似合っているようで。
もう少しだけ、寄り道しようかな。
なんて事を考えていると、彼女が揺らしていた足が俺の靴にぶつかった。

「540度って、次元の狭間にいくのかな」
「次元の狭間って、あったらしいけど。この話、何回目?」

聞いたところで、彼女の手が不意に横から伸びてくる。
何をするのかと少し前かがみになって様子を見る。
俺よりも短い腕を精一杯伸ばして、彼女はハンドルを握った。
そして、俺の手の横に並ぶ小さな手がブレーキを強く握り締めた。
キキキーと、また耳障りな音。

「93回目」

止まったところで、彼女は言った。
自転車を止めて、俺は足を地面につける。
彼女は自転車から降りて、笑った。

「数えてるわけ?」

俺の言葉に、背を向けながら。

「狙ってたわけ」
「なんで、また?」
「縁起よさそうじゃない」
「どうしてまた、こんな中途半端な数字が?」

眉を寄せる俺に、彼女は振り向く。
木々が揺れて、影が出来た。

「あんた、今日が何の日か忘れてるでしょ?」
「え?」
「ケーキ、楽しみにしてるからね」

それきり、彼女は笑って走り去った。
俺は考えること数秒、自転車を降りるともと来た道を辿るように方向を変えた。
いつの間にか出ていた日に照らされて熱くなったサドルに座る。
彼女の好きな苺のショートケーキは買えるだろうか。
小さなケーキで良いだろう。
彼女の家に持っていって見せれば、彼女はきっとケーキの小ささにふてくされる。

「買ってやる俺って優しい奴ー」

一人呟いて、鼻歌交じりに自転車をこぎだした。
ふてくされながらも、ケーキを一口食べて笑い、彼女はきっと来年の誕生日について注文するに違いない。
それに答える俺は優しい奴と思いながら、口元が綻ぶのがわかった。

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