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「五感を持ってお出で」
突然の言葉に僕は目をぱちくりとさせた。
彼女と出会ったのは昨日。
早朝に近所の公園へと出かけた僕。
こんな美しい景色があるのかと思った。
落ちる枯葉。
揺れる小枝。
そして、その中で踊るように歩く少女。
閃光のように、その少女は僕の全てを一瞬にしてさらっていった。
僕は思わずシャッターを切る。
翌日、微かな望みと共に訪れた公園で言われたのはこんな台詞だった。
「え、あの…」
「私のこと、撮ったでしょ?」
「うん」
否定は出来ません。
頷く僕に、少女は盛大なため息をつく。
長い髪がさらさらと揺れた。
綺麗な黒髪に僕はカメラへと手を伸ばす
瞬間、少女はカメラを叩き落とした。
盛大な音を立ててカメラが落ちる。
僕は硬直した。
「僕の、ライカ…」
「有名なの?」
「このカメラは10万もするんだよ!知らない?ライカ製のカメラって」
「知らないわ」
「って、それ以前に、このカメラは大事なの!人のもの壊しちゃいけないって!」
「ふーん」
少女は淡々としている。
一人拗ねる自分が馬鹿らしくなり、僕はカメラを拾った。
レンズが割れていた。
「写真機は要らないわ」
「え?」
「五感を持ってお出で」
私の姿を映したいのなら、その瞳に宿せば良い。
平然と言う少女に、僕はカメラを落としてしまう。
ガシャン。
また、割れた。
「今日、現在が、確かなら万事快調よ」
「明日にはどうなるかわからないよ?」
「明日には全く憶えていなくたって良いの」
「そう?」
「昨日の予感が、感度を奪うわ。私の、残像が歪むわ」
少女は公園においてあった丸太に腰掛けた。
どこにいても。
どんな姿でも。
少女を写真に収めたいという衝動が駆られた。
でも、彼女は閃光少女。
一瞬にして、消える。
閃光。
「今日、現在を、最高値で通過していくのよ」
「僕の、最高値?」
「明日まで電池を残す考えなんて無くて良いの」
「それが、君の生き方?」
「私は閃光だもの」
少女はシニカルな笑みを浮かべた。
どうしようもない。
僕は苦笑する。
「ああ、でも、君を写真に収めたい」
「昨日の誤解で、焦点が歪んでいるわ」
「え?」
「貴方は、何を写したいの?」
少女の問いに、僕は答えられなかった。
「今日、現在が、どんな昨日よりも快調よ」
「今日の君のほうが、写したい」
「明日からは、そう思えなくたって良いの」
「それは、君の見解だ」
「私は私よ。貴方に写される筋合いは無いわ」
「それでも、写したい」
「焼きついてよ、生きているうちに」
「え?」
「フィルムに、私の残像を残して見せてよ」
少女はようやく立ち上がった。
僕に与えられた、ようやくの許しの言葉なのだろうか。
しかし、生憎カメラは壊れた。
五感で彼女を撮るしかない。
僕は彼女を瞳に移した。
流れる髪に。
鮮やかな瞳に。
透き通る肌に。
五感の全てが奪われる。
「またとないいのちを、つかいきっていくから」
「え?」
「私は、今しか知らない」
「君は…」
「初めてだわ」
少女は笑った。
「貴方の今に、閃きたい」
貴方の今を、閃きたい。
「これが最期だって光って居たい」
笑った少女は僕の全てを奪い去る。
彼女は、閃光。
閃光少女。
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とりあえず歌詞をあらかた載せてみました。あれ…?
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