「精神」の冒頭文より。
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雨だ。
冷たい雫が窓を濡らしていく。
冬も始まる十一月。
秋が過ぎた物悲しさと、今年の冬にかける期待。
今年は雪が降るだろうか。
降らない方が嬉しい。
雪が降るのは寒い証拠。
降った方が嬉しい。
どうせ寒いことには変わりない。
冷たい雨が雪に変わる姿を想像し、楽しむ人々。
雨が降っている。
ざあざあと耳障りな音をたてながら、雨が降っている。
プラットホームに設置されている屋根の下で、長さがそれほど無い屋根では庇いきれなかったコンクリートが濡れていた。
捨てられていた煙草の吸殻がか細く煙を出していた。
人々は煙草を踏みつけ白線の内側で電車を待つ。
アナウンスが鳴り、聞き覚えのある声が予定より出発の遅れた電車がつい先ほど一つ前の駅から発車したと告げた。
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「先生」の冒頭文より。
因みにこれは「精神」の一年後に書きました。
進歩していないなあ…。ふっ。
―――
僕はタオルを投げた。
緑色のタオルは綺麗な流線型の起動を描きソファに落ちる。
ふかふかのソファは長年使われ、汚れていた。
窓から差し込む日差しがソファの後ろに長い影を作っていた。
「うん、ナイス」
アルトの澄んだ音色が聞こえた。
僕は頭を振ると何回か軽く瞬きをした。
濡れた前髪からポタポタと水滴が落ちる。
クスクスと笑い声が響いた。
「雨の中、どうしたものかと驚いたよ」
つい先ほどまで窓の外では激しい雨が降っていたのだが、僕がタオルで服や髪を拭いている間に止んだようだった。
すっかり晴れ渡った青空には綺麗な虹が架かっている。
向かいの窓からその姿を確認し、僕は濡れた手を服にこすりつけた。
指は冷たい水のお陰でか、指は赤く腫れていた。
「雨が降ったから急いだだけだろ」
「そうだろうねぇ。うん、健康なのは良いことだよ」
「先生は何時見ても不健康そうだな」
「君から見ればそうだろうね」
盛大なくしゃみをした僕に対し平然と言葉を述べる先生。
日に焼けていない先生の白い肌が蛍光灯の下で小さなえくぼを作った。
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お粗末さまでした…!
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